10/16(水)東京出発130日目、アルバニア2日目 エルバサン~ブルーアイ~ジロカストラ 走行距離272km
朝起きて身支度を整えた後、少し困ったことがありました。
この宿も一軒家を改造していくつかの部屋を宿泊客に貸しているタイプのものだったのですが、私がチェックアウトしようとしたときにこの家の人が誰も家にいませんでした。
昨晩話をした老夫婦ももう出発した後のようでした。
家の門の所に部屋の鍵の返却口があったので鍵の返却はできるのですが、そもそもお会計をしていないのです。
とりあえずバイクに荷積みだけ済ませてしまいます。それでも家の人が帰ってくる様子もなく途方に暮れてしまいます。
仕方ないのでメモ用紙に私ということがわかるように私の氏名と日本人ライダーであることを書いて、そのメモ用紙で作った袋に現金を入れて鍵の返却口に入れて行こうかとも思ったのですが、裏側に落ちてしまったり、無理に手を入れたら表から取られてしまう危険もありました。
困り果てて途方に暮れているとその家の前を一人の老紳士が通りかかり、目が合いました。
その方は多少英語が話せてどうしたのか尋ねてくれたので事情を説明すると、玄関から大きな声で家の人を呼んでくれます。
しかしそれでも誰も出て来ません。するとその老紳士は家に携帯電話を置いてきてしまったからそれを取って来てこの家の人に電話をかけてあげると言ってくれます。この老紳士の方はこの家の人の従兄弟だと言っていました。
しばらくすると携帯電話を持って来てくれたのですが電話にも出ないということです。
仕方ないので玄関脇にお金を置いておくので、この家の人のここに置いたということを伝えてもらえるようにその老紳士にお願いしました。
幸いなことに門の鍵は私が借りていた部屋の鍵に一緒に付いていた鍵で閉めることができたのでセキュリティも大丈夫そうです。
このとても親切な老紳士にお礼を言って出発することにしました。
この日目指すのは、この国にあるブルーアイと呼ばれる神秘的な湖です。
本来ならばアルバニアをこのまま北上してモンテネグロに入るのが正規のルートとなるところだったのですが、このブルーアイをどうしても見たくて、この日は南に約250km下がったところにあるブルーアイを目指すことにしました。
それにしてもアルバニアの景色の美しさには惚れ惚れしてしまいます。景色の美しさではキルギスもジョージアも大変美しかったのですが、このアルバニアはそれらの国を凌駕するのではないかと思うほどの美しさです。
この日目指すブルーアイは太陽の光を受けて真っ青に染まる湖なのです。ですので天気に依って全然見え方が変わってしまうようです。
この日の天気はまさに快晴。雲一つない文句の付けようのない天気です。
また時間帯も重要で日の高い13時頃が最も美しく見えるということなのですが、朝の時点でモタついてしまった影響で13時は少し過ぎてしまいそうでした。
途中、脇道に入ると面白そうなダートが10kmほど続いて再度メイン道路に合流する地点を見つけたのですが、なるべく早い時間にブルーアイに到着したかったことからそこには帰るときにでも走ろうと思って立ち寄ることはしませんでした。
ブルーアイに行くために手前300mくらいの地点にバイクを停めて歩いて行きます。本当はもう少し近くまでバイクで行けたのですが、酷いマディ(泥道)が現れたので、無理をせずに歩くことにしました。
このブルーアイは最近少しずつ知名度が上がってきたということではありましたが、まだまだ観光客らしき人はそんなにいません。ブルーアイまで歩いて行くまでに途中二組のカップルが歩いて戻ってくるのに出会ったのと、新たに車で二組のカップルが来たのを見たくらいで、観光客であふれかえっているということが無かったのも私にとっては非常に良かったです。
ブルーアイに到着して、私は呆然と立ち尽くしました。
こんなにも美しい場所がこの地球上に存在するのかと…。

その湖はブルーアイの名に相応しく、太陽の光を受けて真青な眼光で周囲の音まで吸い込んでいるかのように静かに佇んでいました。
裸足になり、そっとその蒼い瞳に吸い寄せられるように足を浸けてみます。
音だけでなく私そのものまでも吸い込まれてしまいそうなその冷たさは足先から私の脳天まで伝わり、私が生きているということをまざまざと思い知らせてくれます。

神々しく森の奥にひっそりと佇む蒼い瞳。

どうかこの地の人たちの手によって、この先もこの美しい姿を守って欲しいと思います。
ここまで来る間にも夜営するのにスゴく良さそうな場所を何ヵ所も見つけていて、ブルーアイを見てテンションも上がっていたので、夜営したいという気持ちが強くありました。
しかしこのとき、私の怠慢で洗濯を長い期間しておらず、ここだけの話、パンツも靴下も2ラウンド目どころか3ラウンド目に突入しているものもあり、どこかに2泊してどうしても洗濯をしたかったのです。
それを考えるとブルーアイから30kmほど行ったところにあるジロカストラに2日滞在すれば、洗濯物を乾かしている1日の間に観光もできて都合が良いと考えていました。
もちろん1日くらいここで夜営をしてからジロカストラに向かっても良いのですが、ただ夜営したいがためだけに1日余計に時間を費やすことが正しいことのように思えなかったのです。
こういう気持ちの余裕の無さが私の良くないところなのように思います。
ブルーアイからジロカストラまではあっという間で、事前に調べていた宿も東ヨーロッパに入ってからの例に漏れず驚くような格安で快適な宿に泊まることができます。
宿に到着すると可愛らしいご年配の女性が出迎えてくれます。全く英語は話せずすべて身振り手振りでのやりとりですが一生懸命に伝えようとしてくれる姿に好感が持てます。
バイクも門の中に入れさせてくれます。荷物を部屋に運ぶと早速たまっていた洗濯をします。
洗濯を終え夕飯を近くのレストランで摂りに行きました。
おしゃれなレストランですがピザが一枚日本円で約200円~で食べられ、成人男性でもピザ一枚食べたらお腹いっぱいになります。さらには無料でリンゴや桃などの果物がカットされたお皿が出てくるという考えられないようなサービスです。
アルバニア人は一見無口でおとなしそうな雰囲気なのですが、とても紳士的な人が多いと感じます。
このお店の若い男性従業員も一見不愛想に見えるのですが、立ち振る舞いが大変丁寧で、料理や飲み物を運んでくる度に小さな優しい声で「enjoy」と言ってくれます。
ブルガリアから始まり北マケドニア、そしてこのアルバニアと東ヨーロッパの国々は本当に素敵です。確かに観光名所らしい観光場所はないのですが、物価も安く人々はのんびりと暮らしていて自然豊かで、でも一方でサービスレベルは高くインフラも整っているためオートバイでのんびりと旅をするのには最高の場所だと感じます。
宿に戻ると何か少し体調がおかしいです。喉と鼻の奥が痛くてだるいです。これはいかんということでこの日はこのまま就寝することにしました。
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