12月22日(日)東京出発197日目、セネガル2日目 サン・ルイ~ダカール 走行距離 278km
さて、この日はダカールにある日本人宿「シェ山田」を目指します。約10日前に山田さんより日本人ライダーが滞在しているとご連絡いただいていたのですが、果たしてまだいらっしゃるのでしょうか?
この日本人ライダーの方とは数日前に連絡を取っていて、この方は今回の旅はダカールまでで一旦終わりにして、来年南米を走るとおっしゃっていたので、一緒に走る機会はなさそうですが、ライダー同士でできる旅の話ができれば良いなぁと思っておりました。
昨晩滞在したバンゴの村を抜けてサン・ルイの中心地に入って行きます。サン・ルイは街全体が世界遺産に登録されているということですが、恐らく綺麗な場所は大西洋側に伸びた半島側であり、このあたりは海沿いがゴミ山となっていて酷い悪臭を放っています。
昨日見かけたガゼルたちもヤギに混ざってこのゴミ山のゴミを漁っています。その中にはゴミ漁り用の引っ搔き棒を持った子供たちの姿も見られます。
サン・ルイの街でガソリンスタンドに立ち寄り給油をし、併設された商店でバナナやパンなどの朝食を購入しました。
この辺りは貧富の差が激しいようで、大変綺麗な身なりをして高級車に乗る人たちがいる一方で、そういった人たちに集って物乞いをする人たちがいます。
私が朝食を購入して商店から出てくると案の定何人かの子供たちが物乞いに私のところにやってきました。
10人くらいの子供たちが寄ってくるのですが、生憎私はこの子たちにあげられるようなものは持ち合わせていませんでした。
そんな子供たちをしり目に朝食を食べていたのですが、ふと、ハロウィンの頃にクロアチアで買った小さく個装されたチョコレートの入った袋を持っていたことを思い出しました。
私はそれをバッグから取り出すと子供たちに声を掛けます。
子供たちが我先にと私の手からそのチョコレート袋を奪い取ろうとします。その中で一番背の高い男の子がギュッとチョコレートの袋を掴みました。
私は慌てて「ちょっと待て!これはお前だけにあげるんじゃないぞ!みんなで分けるんだぞ!」と言います。
近くでその様子を見ていた大人が、私が子供たちから物を強奪されそうになっていると勘違いしたようで子供たちを叱りつけました。
また私は慌てて「大丈夫です。これはこの子たちにあげるものです」と言いました。
そこで子供たちも少し冷静になったようで再度一番背の高い男の子に「みんなで分けるんだぞ」と言ってチョコレートの袋を渡しました。
するとその男の子は「ウィ(フランス語で「はい」の意味)」と言ってチョコレートを受け取ると、そこにいた子供たちを並ばせて一人ずつに配っていきました。
子供たちは小さな小さなチョコレートを一粒ばかり受け取ると私のところにやってきて「メルシー(ありがとう)」と言うのでした。
私はその小さな手に握られた小さなチョコレートを見て、私のできることってこんなにも小さく自分自身があまりにも無力であることを思い知らされたような気がして、悲しい気持ちになりました。
チョコレートを受け取った子供たちが食べ始めたときに、一人の男の子がチョコレートの包み紙をそのまま地面に捨てました。
私は「コラ!ゴミを捨てるんじゃない!ゴミ箱があそこにあるんだからちゃんとゴミ箱に捨てなさい!」と叱りつけると慌ててゴミを拾ってゴミ箱に捨てていました。他の子たちもそれに倣ってゴミをちゃんとゴミ箱に捨てます。
この子たちはきちんと教えれば理解できるのです。たった一粒小さなチョコレートをもらっただけで「ありがとう」ってきちんとお礼も言えるのです。もしかしたらチョコレートは全員に行き届かなかったかもしれません。あの小さなチョコレート一粒を兄弟で分けていた子もいたかもしれません。
それでもこの子たちは「もっと頂戴」とは言わずに、「ありがとう」とだけ言ってくれました。
きちんとした教育が受けられれば、富が一部の人にだけ集中しなければ、この子たちの未来はもっともっと明るく輝くのにと思えて仕方がありません。
私も朝食を済ませてバイクを走らせると、子供たちがみんなで手を振って見送ってくれました。
サン・ルイからダカールまではそこまで距離は無いのですが、間に小さな村々があります。村の中は50km/h規制となっているのでペースが上がりません。
途中、小さい集落のようなものがありました。
私は集落に入っていることに気付かずいつも通り90km/h巡行で走っていると50km/h規制終了の標識を見つけました。
しまった!!
50km/h規制を見逃していました。
後ろからぴったりバイクがついてきます。最初は警察かと思ったのですが私を停める気配がありません。ただただ真後ろをぴったり付けてきます。
なんだろうか?気持ちが悪いです。警察なら警察で停止を求めてくれればいいのに単にぴったり付いてくるだけです…。
すると次の村の入り口で立っていた警察官に停止を求められました。
そういうことでした。後ろをついてきたバイクは私が違反者であるという目印として追跡して、次の村の入り口にいる警察官に引き渡すという算段だったようです。
自分で違反したという認識があるので何も言い訳ができません。
警察官:「わかりますか?あなたはスピード違反をしていました。」
私:「はい。すみませんでした。」
警察官:「あそこに壊れた車が放置されているのが見えますか?二日前にもこの辺りで事故があり二人亡くなっています。特にあなたはバイクです。事故を起こせば相手だけでなくあなたも大怪我します。」
ここまで言われてしまうと私もぐぅの音も出ません。この警察官は背が高く非常に体格も良いのですが、高圧的な態度は一切なく、非常に紳士的に対応してくれます。
警察官:「罰金なのですが、支払方法は二つあります。明日警察署に行ってそこで払うか、今ここで支払うか。どちらでも構いません。どちらにしますか?」
私:「…、今払います」
警察官:「60,000CFA(約12,000円)になります」
私:「!!!!!」
警察官:「60,000CFA(約12,000円)になります」
私:「ちょっとちょっと?!本当ですか?」
警察官:「はい、60,000CFA(約12,000円)になります」
私:「そんなに持ち合わせがないんです(あるけど)。なんとかなりませんか?」
警察官:「今持っていないのであれば、明日警察署で支払ってください」
私:「いやいや…、もう少しどうにかならないですか??」
警察官:「仕方ないですね。それじゃ50,000CFA(約10,000円)で」
私:(あ、下がるんだ)「もうひとこえ!!」
警察官:「40,000CFA(約8,000円)。これ以上は下げられません」
こんな高い罰金、現地の人だったら大変ですよ。恐らく外国人価格に設定しているのではないでしょうか?
それでもこの警察官の態度は非常に紳士的だったため従うしかありません。
泣く泣く40,000CFAを支払いました。
私はショックでフラフラと歩きながら自分のバイクに戻ると、警察官たちは私のその姿を見て笑いながら「安全運転でゆっくり走るんだぞ~」と言っています。
私が悪いのはわかっています。違反をしたのは私ですから。でもあまりにも罰金が高すぎます…。
こんなお金を払うのであれば、朝のガソリンスタンドの子供たちに何か買ってあげたほうが100万倍マシでした。
ショックを引きずっていた私は次のガソリンスタンドで休憩を取っていると、案の定、物乞いの子供たちが寄ってきます。
子供たち:「なんか頂戴よ」(おそらくフランス語でそう言っているのだと思います)
私:「ごめんなぁ。おじちゃん、さっき警察に捕まってたくさんお金取られちゃったんだよ。君たちにあげられるものはないんだ。あんなお金払うくらいなら君たちに何か買ってあげる方がずっと良かった」。そう英語で言うもこの子たちには言葉は通じません。
でも、私が悲しい顔をして「police」と言い、身振り手振りで捕まったと伝えていたので、子供たちもなんとなく察したようで、悲しそうに私を見つめると、そっとその場を離れて遠くから私を伺い見ていました。
しかし、いつまでもクヨクヨしていても仕方ありません。お金だけの問題で済んだのだからヨシとしようと気を取り直して出発しました。
ダカールの街は渋滞が酷いと聞いていたのですが、この日は日曜日だったためかそれほど酷い渋滞には嵌らず「シェ山田」まで到着することができました。
入り口のインターフォンを数度押すと、中から日本人男性がひょっこりと顔を出しました。
山田さんの顔は知っていたので、山田さんではないことはわかります。きっと日本人ライダーの窪川さん(のちに私はリョウさんと呼ぶようになります)だろうと思い、「窪川さんですか?」と聞くと「はい、そうです。」との返事でした。
この日もたくさんのことがあり、たくさん心揺さぶられるようなことがあったため、疲労感はありましたが、やっと日本人のいるここ「シェ山田」に来てホッとしました。
この日もシェ山田でビールを煽って気持ちよく眠りに就くのでした。

お目々、キラキラだね
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