1月22日(水)東京出発227日目、ギニア14日目 マムー~ファラナ 走行距離195km
朝起きて外に出てみると、リョウさんがタバコを吸っていました。
体調は大丈夫なのか聞くと、たくさん寝てすっかり良くなったと言います。
多少心配ではあったのですが、スケジュールの問題もあったので、決して無理はしないようにと伝えて出発することにしました。
この日の移動距離はそこまで無かったため、安全運転でリョウさんのペースで走るように伝えます。
50km/h巡行で走っても午後2時には目的地のファラナには到着するので、途中休憩を挟んだりしたとして16時くらいにファラナに着くペースで行きましょうと伝えます。
そうは言ったのですがいつもよりも速いペースでリョウさんは走ります。
もしかしたら体調不良で一日遅延したことを気に病んで気を使って無理なペースで走っているのではないかと心配になります。
私は一人で走っているときはガソリンスタンドに寄ったり昼食を摂る以外で休憩を取ることは滅多にないため、長時間走行もそれほど苦にはならないのですが、リョウさんは定期的に休憩を挟みます。
なので休憩のタイミングはいつもリョウさんにお任せしているのですが、この日は全然休憩も摂らずに走り続けていました。
ファラナの町まで残り50km付近の町中でリョウさんが停止し、ここで休憩を取ろうと言いました。
しかし、この町の人たちがたくさん我々のところに集まってきてしまい、さらには一人の年配の女性が歌いながらやってきてお金をせびってきます。
あまりにも鬱陶しかったため、私は「ここで休憩するのはやめて一旦脱出しましょう」と言いました。
リョウさんはそれに従いそのまま走り続けたのですが、ファラナ直前10km付近で停車すると「水を飲んで良いですか?」と私に聞きました。
そんなのは当然構わないですし、もしかして私に気を使って我慢していたなら大変申し訳なかったなと思いました。
ファラナの町に入るといつも通りガソリンスタンドに寄って給油します。
この国の人は並ぶということを知りません。
リョウさんの後ろに私が並んでいたのですが、やってくるバイクみんなが割り込んで来ようとします。
最初にやってきた若い少年のようなバイタクのお兄ちゃんが割り込んできたので、「私が先ですよ。後ろに並びなさい」と言うと素直に従います。
しかしそのあとにやってくるバイタクのアンちゃんたちがどんどん割り込んで来るのでその都度私は後ろに並ぶように注意しました。
この国の人たちは並ぶ習慣はない代わりに、きちんと伝えると素直に従うのです。
私の給油が終わると、またみんな割り込んで我先に給油しようとするのですが、一番最初にやってきた少年のようなお兄ちゃんが外に追いやられていたので、「私の次は彼だよ。みんな割り込むんじゃない」と言うと、それにもみんな素直に従いました。
全く持って不思議です。
給油を終えたリョウさんのところに行くと、リョウさんはここで冷たいものでも買って休憩を取りたかったのかもしれません。
一方の私はこの日目星をつけていた宿まで5kmほどのところまで来ていたので、早くチェックインして落ち着きたかったため、「このまま宿まで行きませんか?」と言うと、リョウさんは「わかりました」と返事をしました。
このときの返事の仕方にいつものリョウさんとは違う少しトゲがある言い方に感じたので「アレ?」とは思ったのですが、このとき私はそれほど気にかけていませんでした。
目星をつけていた宿に向かう途中、あとちょっとの所で検問をしていました。
例のごとくパスポートを見せると、次に「予防接種の証明書を見せろ」と言うようなことを言ってきます。
しかし彼らも全く英語を解せないため、あまりうまく意思の疎通が取れません。
なんとなく黄熱病の予防接種の証明書を見せるのですが、何やら文句を言ってきます。
今年は2020年だというようなことを言っていて、私たちの予防接種の証明書に記載された年号が2019年だからダメだと言っているようでした。
私が何度英語で「黄熱病は一度接種すれば一生涯有効ですよ」と言っても全然伝わりません。
そんな風に押し問答していると、近くにいた町人らしき人が多少英語がわかるようで通訳してくれました。
するとこの警察官たちは難なく「セボン(フランス語でOKの意味)」と言って解放してくれました。
あれだけ強硬にダメだダメだと言っていたのに、通訳してもらって黄熱病は一回打てば一生有効だって言ってもらっただけでOKってどういうことなのでしょうか?
本当に疲れます。
このときのやり取りもリョウさんをイラつかせていたようでした。
そこからほんの1kmほど走ると、目星をつけていた宿に到着しました。
この宿は敷地が広く、バイクで入って行くと奥の方に走っていくように言われます。
奥まで進んで行くとそこにいた女性の職員がすぐそこにバイクを停めるように伝えてきたため一旦そこにバイクを停めたのですが、後からやってきたこの宿のオーナーと思われる白人男性にバイクを別の所に持っていくように言われます。
すると、珍しくリョウさんが声を荒げて「何なんだよ!本当にめんどくせぇな!」と言いました。
そして指示されたようにバイクを更に別の場所に移動させたのですが、宿の従業員の指示で、ずいぶん狭い場所に停めるように言われました。
だいぶイライラしていた様子のリョウさんはかなり雑な運転になっていて、そのままバイクを転倒させてしまいました。
するとリョウさんは今までに無い剣幕で日本語でその宿の従業員に怒鳴り散らします。
「何でこんな狭い場所に停めさせるんだ!こっちの手前の広い場所で良いじゃねぇか!?なんなんだよ!ふざけるんじゃねぇぞ!」
ダカールを出発して約2週間。私とリョウさんの間に旅のスタンスの違いがありました。
そのことで私もストレスが溜まって来ていたのは確かです。しかし私は遠慮しつつもリョウさんに最低限言いたいことは伝えていたので少しは大丈夫だったのでしょう。
一方のリョウさんは、年齢が年上で気が強くて口の達者な私に遠慮して、これまでほとんど言いたいことを言えなかったと思います。
そして積もりに積もったストレスがここで爆発してしまったのかもしれません。
後ほどこのときのことを少し聞いたところ、宿の従業員に腹を立てただけとは言っていましたが、リョウさんの本心はわかりません。
私の勝手な想像でリョウさんの気持ちを代弁するのは間違っていると思うのでこれはあくまで私の予想でしかないということを伝えておきます。
ただ、きっと私の態度や物言い、その他意見の違いなども含めてここまでストレスを溜めきたのだろうと私は想像しています。
それがこのような形で爆発してしまったのではないかと…。
正直このような形で立場の弱い宿の従業員に当たり散らすことは良くないとだと思いますし、私はそういうのは大嫌いですが、その原因の一端は私にもあることを考えると申し訳なく思うのです。
また連日猛暑が続き、宿の環境も良くないところが多いです。ギニアは夜間しか電気が使えないくせに年がら年中停電もします。食事もトイレの衛生状態も大変悪いです。
道路状況も悪い場所が多く、一日に何度も検問を受けてその度にドキドキさせられます。そんな中体調も崩してしまい、一緒にいる日本人である私にも遠慮して言いたいことを言えなければ、反対に私にはときどき厳しいことを言われて、ストレスが溜まってしまって当たり前なのです。
このとき、どこまで私にできるかはわからないけれども、できるだけ早いうちに腹を割って二人できちんと話をしなければならないと思うのでした。