2月27日(木)東京出発263日目、ガボン7日目 リーブルビル
船会社からバイク受け取りのためにさらなる追加料金が発生すると言われて納得できない私。
口論の末に日本大使館に電話をしてアドバイスをもらいました。
その結果コトヌー側の船会社とガボン側の船会社で話し合ってもらうようにお願いできないかとのことでした。
ということで早速スラデュさんに電話をしてみます。しかし出ません…。何度か電話をしてもやっぱり出ません…。
仕方なくウンゲ氏に電話をしてみます。
私:「先日CASSANGAにバイクを載せていただいた日本人ツーリストですけど覚えていますか?」
ウンゲ氏:「へーい。マイフレンド。当然覚えているぜ。どうしたんだい?」
私:「今ガボンでバイクを受け取ろうとしたら、こっちの船会社の人間と思われる奴から、お金を支払わないとバイクは引き渡せないと言われてしまって。でも私にはそれが何のお金なのかはっきりしなくて。悪いんだけどウンゲさんの方から話をしてもらえませんか?」
ウンゲ氏:「わかった。じゃ、電話を代わってくれ」
そうしてウンゲ氏と船会社の人間で話をしてくれました。ウンゲ氏も何やら一生懸命話をしてくれていたのはなんとなく感じ取ることはできたのですが、ウンゲ氏からの返事は以下のようなものでした。
ウンゲ氏:「話を聞くと、奴らの請求している、通関業務をする上でのお金は正規のものなのは間違いない。だから本来支払う必要のあるものなんだ。でも、スラデュなら昔税関で働いていたことがあるからなんとかしてくれるかもしれない。俺の方ではどうにもできないからスラデュに電話してみてくれないか」
正規のものであるということならば仕方ないのかもしれません。でもウンゲ氏の言うことだからなぁと思って再度スラドゥさんに電話をしてみます。
しかし、呼び出し音は鳴るものの一向に電話には出ませんでした。
私はコトヌーにいるときから連日の交渉でなどでかなりすり減っていたため、スラドゥさんに聞かずともウンゲ氏が「正規のお金だ」と言うのであれば払ってしまって楽になりたいなぁと思い始めていました。
それでも諦めずに時間をおいて何度か電話をしたところやっとのことでスラデュさんにつながりました。
私:「あぁ、スラデュさん。私です。ヒデです。覚えてくださっていますか?」
スラデュさん:「ヒデさん。どうされましたか?」
スラデュさんの優しい声を聞いて思わず涙が出そうになります。
私:「スラドゥさん…、かくかくしかじかなんですよ」
スラドゥさん:「わかりました。私から船会社の人と話してみますから電話を代わってもらえますか?」
そうしてスラドゥさんも船会社の方と電話で話をしてくれたのですが、やはりスラデュさんからも
スラデュさん:「船会社の請求しているお金は正規のもので間違いありません。それはお支払いいただくしかないです」
ということでした。
ウンゲ氏もスラデュさんも「間違いなく正規のお金」ということでしたら仕方ありません。我々は支払いに応じることにしました。
そして「正規のお金」だったにも関わらず3時間近くもゴネてしまい、船会社の職員にも、この通訳の男にも大変申し訳ないことをしてしまったと思いました。
我々は当然そんな大金を持ち合わせていなかったので近くのATMまでお金をおろしにいきました。すると通訳の男もついて来てくれます。この男は我々が口論している間、常に中立的な立場で私情を挟むことなく真摯に通訳の仕事をしてくれていました。
あまりにも対応がきちんとし過ぎているので、すべてが終わった後に法外な金銭をまた要求されるのではないかと思うほどです。
もしそうだとしても私はこの男の誠実な態度に心惹かれていました。
お金をおろして船会社の事務所に戻るとこの通訳の男が聞いてきます。
通訳の男:「お前らいつリーブルビルを離れるんだ?」
私:「たぶん明日には出発すると思います」
通訳の男:「お前らさっき大金をおろして財布をそのままポケットにしまったろ?あれは絶対にやめろ。大金を持つなら鞄の奥深くに入れるとかしないとダメだ」
私:「危険ですか?」
通訳の男:「めちゃくちゃ危ない」
どうしてこの男はこんなにも親切なのか?と思ってしまいます。この男を信頼した私はこの男に名前を聞きます。
通訳の男:「ザンベジだ。ザンベジ・セルジオ」
私が発音が難しいというとわざわざ紙に書いてくれました。そして我々の名前も「Hide、Ryo」と紙に記載するとそれを嬉しそうに受け取り自身の携帯電話の裏側に張り付けてくれました。
お金を船会社に支払うと担当の男が我々の書類を持ってどこかに出かけていきました。戻ってくるとカルネにもきちんとスタンプが押されていました。
確かにきちんとした業務をしてくれたようです。
大変疲れたのですが、我々はすぐにまたタクシーに乗り込み港に戻ります。タクシーを拾う時もザンベジが金額交渉をしてくれます。我々が払うお金なのでそれをしても彼にはメリットはないはずなのに、どこまでも真摯な男です。
タクシーの中で私はザンベジに聞きます。
私:「もう書類も揃ったし、港に行けばバイクの受け取りは可能なのか?」
ザンベジ:「そうなることを願うよ。俺はもう疲れた。早く仕事を終えて自由になりたい」
港に到着するとサムもどきがやってきます。ザンベジがトイレに行っている隙をついて「警察からパスポートを取り返した手数料の25,000CFA(約5,000円)を払え」と言ってきますが、言葉がわからない振りをしてザンベジが戻ってきたらもう一回言ってくれと言います。
しかし実際にはザンベジが戻ってくるとサムもどきはそのことは言わなくなりました。朝の時点でおそらくザンベジはそんな不当なお金の要求はするなと言ってくれていたのでしょう。
まだ船に載せられている我々のバイクを引き取ろうとすると、船の作業員が金を払わないとバイクは降ろさないと言い出します。
3人の作業員がいて一人当たり25,000CFA(約5,000円)。
ふざけるのもいい加減にしろ!
私:「俺たちはすでに船会社にお金は支払っているんだ!なぜまたお金を払わないとならない?!俺たちがお前らにお金を払う筋合いはない。お金がほしいならお前たちのボスに言いやがれ!」
作業員:「ボスはコトヌーにいるからここでの作業のお金はもらえないんだ。お前たちが払わないならバイクは降ろさない!」
私:「お前らのボスがお前らに給料払わないのはそっちの問題だろ!こっちの問題じゃない!」
そんな風に口論になっていると
ザンベジ:「俺に交渉させてくれないか?」
と言って、もともと一人25,000CFA(3人分で75,000CFA(約15,000円))だったところをバイク一台当たり5,000CFA(2台で10,000CFA(2,000円))までまけさせてくれました。
それでも納得がいかない私はザンベジに対して
私:「俺はこんな奴らにお金を払うなら、ザンベジ、あなたにその分のお金を払ってあげたいんだ。あなたは今日、俺たちをたくさん助けてくれた」
と言いました。それでもザンベジは
ザンベジ:「そう言ってくれるのは大変嬉しい。でも、こいつらにお金を払わないとお前たちは今日バイクを受け取れないかもしれない。申し訳ないけどこいつらにお金を払ってやってくれないか?」
そう言って真っ直ぐな瞳で私を見つめます。ザンベジはどこまでも真摯な男でした。
ザンベジの優しさを考えたらこいつらにお金を支払わないわけにはいけないと思い、仕方なくこのバカ作業員にお金を払いました。
しかし結局はこの馬鹿どもはほとんど作業はせず、私たちとザンベジで船からバイクを降ろしました。
作業が終わるとザンベジはそのまま帰ろうとしたので
私:「待ってくれ。港を出たところで待っていてくれないか?きちんと挨拶がしたい」
ザンベジ:「わかった。ゲートを出たところにいるよ」
準備をして港を出ると、そこにザンベジは待っていてくれました。
私とリョウさんからザンベジに対してお礼として幾らかのお金を渡します。この男はあんなにも我々のために一生懸命動いてくれたのに、最後まで私たちに金銭の要求をすることはありませんでした。なのでもしかしたらお金を渡すことは彼にとって失礼にあたってしまうかもしれないと思いつつも、それでも今の私たちにできることはそれしかなかったのです。
ザンベジ:「なんてこった!おれは何て幸運なんだ!ありがとう!」
私:「これはラッキーなのではなく、あなたが誠実に仕事をした結果だよ。いつかあなたが日本に来ることがあったら今度は私があなたを助けたい」
ザンベジ:「俺が日本に行くだって?そんなときが来るとは思えないよ。どうやったら俺みたいな男がそんな金持ちになれるんだ?」
私:「あなたなら金持ちにもなれるし幸せにも絶対になれるさ。あなたのような誠実な人はそうならないといけないんだ」
ザンベジ:「そうなったら良いな。とにかく無事に旅を続けてくれよ!お金はポケットだけじゃなく鞄の中とかいろいろなところに分散させて持つんだぞ」
そう言ってザンベジは最後まで私たちのことを気にかけてくれ心配してくれました。
アフリカに入ってからはどこに行っても金くれ金くれでうんざりしていましたが、そんな中でこんなにも誠実で真っ直ぐな男に出会えたことに私は心から感謝しました。
もし今回、彼以外の男が通訳だったら私の心は相当疲弊していたでしょう。
どうか、このザンベジのような人が報われる世の中であって欲しいと心から願うのでした。
写真写りがイマイチですけど、すげぇイケメンでした
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久しぶりです。アフリカは想像以上に大変そうですね…それにしても、ザンベジさんのような方が日本に来た時には私からも是非何かごちそうさせてください!日本は新型ウイルスの影響で少し混乱していますよ。この先もとにかく気を付けて安全第一でお願いします。
内藤!
コメントありがとう!
ザンベジは本当に誇り高く格好いい男でした。
彼のような誠実な男が報われる世の中であって欲しいと願ってやみません。
コロナは大変なことになってるね。もちろん高齢者とかは気を付けないといけないとは思うけど、コロナそのものよりも、それから派生している事の方がよっぽど大変な事態を招いてるということをみんなわかってるんだから、もう少しどうにかできないものなのかね?と思ってしまいます。
自粛自粛の方がよっぽど怖い…