3月3日(火)東京出発268日目、ガボン12日目 ンデンデ~ 走行距離15km
転倒から2時間が経過して、コンゴ方面から一台のバイタク(東南アジアのトゥクトゥクを小型にして屋根なしにしたようなもの)がやってきて、その荷台部分に5~6人の男が乗っていたため、バイクを起こすのを手伝ってくれました。
彼らは心配そうに我々を見つめていましたが、これ以上彼らにできることは無いのでそのまま行ってもらうことにしました。
その後さらに一時間が経過しました。
午後の2時過ぎ一番日差しの強い時間帯です。ジリジリと照り付ける太陽が容赦なく私たちの体力を奪っていきます。
私:「リョウさん。日陰に行ってください」
リョウさん:「いえ。大丈夫です」
ダカールから一緒に走って来て、厳しいことを言ってしまったこともありましたし、一人で走りたいななんて思ったこともありましたが、今このとき、一人でないことが本当にありがたかったです。
もしこのとき私は一人だったら精神的にかなり追い詰められていたでしょう。隣にリョウさんがいて話し相手になってくれることは本当に心強かったです。
2時15分頃
一台の小型バイクがやってきました。地元の人のようです。小柄でラフなシャツを着ていて気のいいおっちゃんって感じの人でしたがどうやら警察官のようです。
彼はフランス語しか話せないようですが、我々を見て、私が怪我をしていることを訴えるとすぐに電話をかけてくれ応援を呼んでくれました。
どうやらこのまま国境に行く予定だったようです。
言葉は通じませんが優しい笑顔で我々に話しかけてくれずっと付いていてくれます。
彼が応援を呼んでくれてから一時間ほどするとサイレンをならしながら車がやってきました。
ま、まさか!?救急車を呼んだの??
と思っているとどうやら警察の車のようです。朝にイミグレーションで働いていた男も何人か混ざっています。
ずいぶん大げさなことになってしまったと焦ります。
車はなるべく私に近い場所に寄せようとしてくれるのですが、大きな水たまりとヌタヌタのマディに阻まれて寄せることができません。
私はそこまで自分で歩けるからそれで良いと言うのですが、みんなして歩くんじゃない!と言ってきます。
遂には最初に応援を呼んでくれたおっちゃんがおんぶするから背中に乗れ!と言います。
仕方なく背中に乗ると、そこにいた警察官たちが一斉にその姿を写真に撮ります。恐らく「日本人を助けた地元警察官」として新聞にでも載せたいのでしょう。
もう知ったこっちゃありません。
車の荷台に乗せられてそのまま運んでもらいます。
リョウさんはバイクをそこに置いて行くのが嫌だったようで自走で帰ります。
帰った後にリョウさんが
リョウさん:「もう二度とあの道は走りたくありません。帰りも2回も転んで最悪でした」
と言っていました。
そして、警察の車が来た時も「頭が痛い」と言っていたので恐らくまた熱中症になりかけていたのだと思います。本当に大きな負担をかけてしまいました…。
ンデンデの村に着くと私を病院に連れて行くと言います。
だいぶ痛みは引いていたことと、軽く動かしたりゆっくりなら歩いたりできることから骨折の可能性はほとんどないと思われます。
であれば無理に病院に行く必要も無いと判断して丁重に断ったのですが、先方は強硬に病院に連れて行こうとします。
彼らの思惑が想像できてしまった以上、わたしは絶対に病院になど行きたくありません。
恐らく彼らは無理やり私を病院に連れていき入院させてその写真を撮り、手厚い対応をした警察官としてアピールしたいのでしょう。
冗談じゃありません!
車から自力で降りて歩けるから大丈夫だと言って断ります。
私と彼らの間で押し問答となりました。
あまりの強硬さに嫌気がさします。
私も意地になって断ると、彼らは怒りを露にして去って行きました。
夜、我々に宿に先ほどの警察官の中で一番位が高いと思われる男が宿にやってきました。
警察官:「お前のバイクはあそこに置きっぱなしだ。取りには行ってやらないからな!明日には誰かがあそこに行ってお前のバイクを盗んでいくだろう。それでも俺たちは知ったこっちゃない」
そんな嫌味を言いに来たのか…。呆れてしまうよ。
リョウさんと一緒にトランスポーターを探さないといけないよねって話をしていたのでもともとそんなつもりもなかったですが、こいつらは最初はバイクを運ぶところまでやってくれようとしていたのか…?
私:「いくらかお金を払えば運んでくれるのですか?」
するとこのバカ警察官は両手を広げて宿の人たちにもアピールするように
警察官:「なんだってぇ?!お金を払うからバイクを取りに行ってくれだって??さっきはお金がないから病院には行きたくないって言っていた奴がお金を払うからバイクを取りに行ってくれなんておかしな話じゃないか??ああ!どうなんだよ!そもそもお前が自分で起こした事故だよな!俺達には関係ないだろ!」
ははーん。こいつは私が病院に行くのを拒絶したことが腹立たしくて仕方ないんだな?せっかく日本人を救った村のヒーローになれるところだったのに軽傷だったってなったらあまりニュースとしても面白くないからな。なるほど。ちょっとふっかけてやろう。
私:「そうですかわかりました。バイクは自分で何とかします。今日はありがとうございました。皆さんの助けにつきましてはすでに日本大使館にお伝えさせていただいております。本当にありがとうございました」
(実際に新聞などに載ってしまったら日本大使館にも迷惑をかけてしまうかもしれなかったので宿に戻った時点で事の顛末は在ガボン日本大使館に報告してありました)
するとこの男、非常にわかりやすいです。
警察官:「今日はもう日も沈んでいるから無理だが、明日バイクを取りに行くのを手伝ってやろう」
私:「本当ですか?!ありがとうございます。そのことも改めて日本大使館に伝えさせていただきます」
警察官:「これがガボンのおもてなしです」
本当にどうしようもないろくでなしです。
助けていただいたことは大変感謝していますが、これではありがたみが薄れてしまうことがわからないのでしょうか?でも手伝っていただけるならありがたいのでお願いします。
今後のことはこれから考えることにしてまずは明日バイクの回収をすることが先決です。
大変な一日でした。リョウさんにも大変な迷惑と負担をかけてしまいました。
とにかく今日はゆっくり休みたい…。そう言ってこの日は20時には就寝するのでした。