3月9日(月)東京出発274日目、コンゴ共和国2日目 ニャンガ~ドリジー トラック輸送
前日の夜に、この日は何時出発するのかを確認し忘れていました。私は普段から6時前には起床することが多いのでいつも通り起床し、荷物をまとめ7時頃には出発できるようにしておきました。
宿の外に出るとリョウさんもちょうど起きてきたので少し話をしていると、すぐにジャンがやって来てすぐに出発するぞと言います。
慌ててリョウさんも準備をして出発しました。
しかし、出発時にも警察での手続きがあります。本当に面倒です。我々が出発したときにはまだモイーズは寝起きで何も準備していなかったので、ここでモイーズとジャンが交代になるのかと思っていました。

モイーズはまだ寝起きだったので、ここ日はジャンと交代かと思ってました。
記念撮影までしてしまいましたよ
しかし、警察での手続きをしている間にモイーズもやってきました。私はモイーズの誠実な人柄が大変好きだったので、一緒に来てくれることに大変安心しました。
ニャンガの村を出発してからはバイクで走ったらとても楽しそうなダートが続きます。
途中立ち寄る村々の人たちもモイーズのことを知っているようで大変フレンドリーに接してきます。




そんな中、リョウさんが言いました。
リョウさん:「俺たち、普通のバイク乗りの人たちとは違う経験ができて良かったんじゃないですか?」
もしそう思えるのであればそれはそれで良いことだと思います。でも私には全くそんな風には思えませんでした。確かにこれは他のライダーとは違った経験かもしれません。でも、私はこの道を自分でバイクを運転して走るという経験の方がよっぽどしたかったです。
私は自分に負けたのです。
本当にこの道を走る努力を最後の最後までしたかと言われると、そうだと言えない自分がいます。足を怪我したのは結果論ですのでそれについては仕方ないと思っています。
それでもギリギリまで粘って回復を待って再チャレンジをしようとなぜしなかったのか後悔が襲います。
私は異国の地で怪我をして歩くこともままならなかったとき、とても怖かったのです。どうにか早くあの状況から脱出したかったのです。
私があの道を走るチャンスを得ることはこの先恐らく一生ないでしょう。そもそもガボンまでもう一度バイクを運ぶなんてことはそう簡単にできないですし、もしできるとしてもそれはこの先何十年か先の私が仕事を引退したの後のことになるでしょう。そうなればあの道は今とは違って綺麗な舗装路になっているでしょう。
この一生に一回のチャンスを私は自らの手でフイにしました。
自分に負けるということが何よりも悔しいことです。この世の中の敗北のほとんどが自分との戦いでの敗北です。
たまに勝ったときよりも負けたときの方が学ぶことが多いなんて言う人があますが、私は絶対にそうは思いません。負けることよりも勝つことの方が100万倍価値があります。世の中のほとんどの敗北が相手ではなく自分との戦いでの敗北なのですから。
私はどうしても苦しい局面で自分に負けてしまうことが多かったから勉強でもスポーツでも中途半端な結果しか残せなかったのだと思います。
自分に負けたとき、こんなにも悔しい思いをすることをどうして忘れてしまうのでしょうか?だからこそやっぱり人はいつでも自分に勝たないといけないのだと思います。
私がこのときトラックの窓から見ていた景色は紛れもなく敗者の見る風景でした。
何度目かの貨物の手続きを終えて、ドリジーまでもう少しのところでまた貨物の手続きがありました。
いつも通り私たちはパスポートを提示して、モイーズが貨物の通過の手続きをします。
しかしどうもモイーズの様子がおかしいです。そして心から悔しそうな顔をして絞り出すように言いました。
モイーズ:「お金を払って欲しい」
モイーズはこれまで私たちとの約束で、事前に契約した以上のお金の負担は私たちには要求しないという約束を忠実に守ってくれていました。食事代ですら彼は私たちに払わせませんでした。誠実な彼は絶対に約束を守ろうとしてくれていたのです。
しかし、どうやらここまでの貨物の通過の費用が予想外に大きいもので、おそらく会社から渡されていたお金が足りなくなってしまったのでしょう。
そのモイーズの顔を見て私は躊躇なくお金を払ってあげようと思いました。彼の今までの仕事ぶりを考えれば私にはそこに一切のためらいはありませんでしたから。
しかしリョウさんは納得いかない様子でモイーズに対して「賄賂なのか?」「正規のお金で間違いないのか?」と聞いていましたが、現地の言葉もフランス語も話せて、何度もここを通過して警察官とも顔見知りのモイーズが話してもどうにもならないお金です。今までだって貨物の通過の手続きをしたときにはモイーズがお金を払っていました。なのでここは払うしかないのは明白です。
私は財布を取り出しモイーズに素直にお金を渡してそれで払ってもらいました。ようやく書類にスタンプを押してもらって行こうとしたところ、納得のいっていなかったリョウさんが警察官に食って掛かっています。
それを見て私はなぜだか大変腹立たしくなりました。なぜここで揉めるのか?モイーズはこれは「正規のお金」と言ったではないか!私はモイーズという男を信じていて、彼が正規のお金だと言ったのだから私は納得しているんだ!モイーズのあの悔しそうな顔を見て、ここで揉めたりしたら彼を余計悲しませるだけじゃないか!今まで忠実に約束を守ろうとしてくれていたモイーズが一番悔しかったんじゃないか!そう思ったらリョウさんのやっていることに大変腹が立ったのです。
私:「なんでここで揉めるんですか!モイーズが正規のお金って言ったんだから私はそれを信じますよ!俺は彼を信じてるんだから!ここで揉めたって誰も得しないじゃないですか!ここで揉めて面倒なことになったらみんなに迷惑がかかるのがどうしてわからないんですか!」
もちろんリョウさんにはリョウさんの感情があって納得できなかったのだと思います。それは否定してはいけないことなのかもしれませんが、このときの私はどうしても許せなく思ってしまったのです。
警察の建物を出るとモイーズが吐き捨てるように「クソ!どこに行っても、カネカネカネだ!クソッタレが!」と悔しそうに言うのでした。
我々はこの後この近くのちょっとしたバーで休憩を取ることにしました。
すると、昨夜ニャンガにいたハイテンションツーリストであるドイツ人ライダーのマイケルがKTM990Adventureに乗ってやって来ました。
マイケル:「ふぅ、昨日は地獄のような道だったけど今日は最高に楽しいダートじゃないか!村々の人たちもとても人懐っこくて最高だな」
そんな風に話していると少し遅れてHONDA XL125に乗ったスイス人ライダーのクリスもやってきました。クリスも昨日ニャンガにいたようですが我々は顔を合わせることはありませんでした。ただ、宿にXL125が停まっていたのは見ているので存在は認識していましたが。
クリス:「今日はみんなドリジーまで行くんだよね?どこの宿に泊まるの?」
私たちとマイケルはその少し前に同じ宿に泊まろうという話をしていたのでその宿を伝えます。
クリス:「わかった。僕のバイクは小さくて走るのが遅いから先に行くね。ドリジーでまた会おう」
そういって爽やかなクリスは先に走って行きました。
日が暮れかけたころ、私たちもドリジーの街に到着しました。蓋を開けてみれば事前に聞いていたようにガボンのンデンデから70kmを越えた地点からはそこまで難しい道ではなくなりました。しかしそれは結果論であり今更言っても仕方ありません。
モイーズともう一人のトラックドライバーのジャンの自宅はドリジーにあるようです。ドリジーに到着するとジャンの奥さんと娘さんたちが迎えに出てきました。


ドリジーに到着して私にはいろいろな思いが交錯しましたが、一方ではやっぱりホッとしていました。ここで2~3日休養し、足の怪我の回復を図って旅を再開する予定です。
モイーズもジャンもトラックからバイクを下ろし、我々の荷物を宿まで運んでくれるところまで最後まで本当に丁寧に真摯に仕事をしてくれました。
本当にありがとう。
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