3月18日(水)東京出発282日目、アンゴラ6日目 ソヨ~ルアンダ 移動距離400km
この日はクリスのこの旅最後のツーリングの日です。
カビンダでお世話になったシルバさんもこの日ルアンダにいらっしゃるということで、可能であればお会いしようというのもこの日中にルアンダを目指す一つの理由です。
クリスは125ccの排気量の小さいバイクに乗っていてスピードも出ないということで朝早く出発して行きました。
私も1時間ほど遅れて出発します。
昨日の夕方から降っていた雨は止んで綺麗な青空が広がっていましたが、雨に濡れたソヨの町の道路は大変酷いものでした。
足がまだ完治していない私は不意にバランスを崩して足を着いてしまうと転倒のみならず、怪我の悪化を招く恐れがあるので大変怖いです。
しかしそんな悪路も最初の30kmほどで、そのあとは大変綺麗な道が続きました。
検問もごくごく簡単なもので夕方にはルアンダにほど近い場所まで到着しました。ここでクリスを待ち合わせをしてルアンダのライダースクラブの拠点を目指します。
ルアンダの街は大変発展していますが、一方で海岸沿いにはスラムが広がり貧富の差が大きいのが伝わってきます。
この格差が治安の悪化をもたらしているのは明白です。ルアンダの治安の悪さはアフリカの都市の中でも指折りで、中には信号待ちをしている車に対して強盗をはたらき、周りの人たちも見てみぬふりというような噂も聞きます。
17時半頃
ルアンダにあるライダースクラブの拠点に到着しました。5~6人ほどのライダースクラブのメンバーが出迎えてくれます。
中には英語も多少話せる人がいたのでその人たちとは会話をすることができました。
基本的にはクリスがスペイン語で話をしてくれるのですが、いくらスペイン語とポルトガル語が似ていると言ってもクリスの話す内容を相手はすべて理解してくれるようではありません。
私も彼らの動きを見ていて、どうもクリスとかみ合っていないんだろうなというのを感じ取りました。
そして、この日はライダースクラブの拠点にバイクを置くことなく、彼らが紹介してくれた格安で環境の良い宿に移動することになりました。
私:「クリス?彼らはクリスの言ったことを理解してくれたの?」
クリス:「たぶん伝わってない。スペイン語とポルトガル語だったから細かいことが伝わらないみたいなんだ。今夜シルバさんもルアンダに来るみたいだから、連絡をしてみて可能ならばシルバさんに助けてもらおうと思う」
宿に併設されている食堂にいると、シャワーを浴びて遅れてきたクリスが開口一番驚きの事実を口にします。
クリス:「アンゴラも国境閉鎖するみたい。20日0時をもってすべての空路も閉鎖されるらしい」
私:「20日?!20日ってことは明後日だよね。0時っていうのは19日一杯ってこと?それとも20日一杯ってこと?」
クリス:「わからない。僕は20日の飛行機を予約してるんだけど、飛ぶかどうかわからない…」
私:「ちょっと日本大使館に電話して確認してみるよ」
そう言って私は在アンゴラの日本大使館の24時間対応の緊急連絡先に電話をしてみることにしました。
私:「私は現在アンゴラにいる日本人ツーリストです。20日0時をもってすべての国境が封鎖されるという話を聞いたのですが本当なのでしょうか?」
大使館職員:「正式な発表としては我々は受けていません。しかし私たちの所にも同様の情報がいくつかの所から入ってきているのも確かです。今から15分後の20時からアンゴラ大統領の発表があります。もしテレビを見られる環境にいるのでしたらそちらもご覧になってみてください。その情報につきましてはかなり信憑性の高いものだとは思われるのですが、正式発表を受けていない以上、現時点で断定的なことは言えないのです」
幸いなことにここの食堂にはテレビが設置されていたため、従業員にお願いして国営放送にチャンネルを合わせてもらいます。
20時
画面には見るからに大統領だと思われる人が映し出されました。
やはりクリスからの情報は確かだったようです。そして私のスマホには折り返し大使館から電話がかかってきました。
大使館職員:「先ほど大統領からの発表がありました。正式に明日一杯ですべての国境が封鎖されることが決まりました。日本行きの最終便は明日の18時15分です。それに乗り遅れないように頑張って飛行機に乗ってください」
さらに宿の職員からも連絡が入りました。クリスはもともと明後日の飛行機の予定だったため、二日間の滞在を宿には伝えていたのですが、大統領令を受けて、明日の夜の以降の滞在は不可能になったということでした。
私の旅の終わりは自分の意思とは無関係に、残酷にも外部から伝えられる結果となりました。
私:「クリス…。クリス本当にありがとう。もしクリスが一緒にいなかったら俺は本当に大変な状況に陥っていたよ」
クリス:「そんなことはないよ。ヒデだって今までずっと困難を乗り越えてここまで来たんだから。きっと僕がいなくても自分の力で乗り越えているさ」
今回の件については決してそんなことはなかったと思います。クリスはもっと早い段階でこの旅の終着点をルアンダと決めていました。そのおかげでより早いタイミングでアンゴラの国境が19日一杯ですべて閉鎖されるという情報をキャッチすることができました。それがなければ私は国境が閉鎖されるという情報すらキャッチすることなくこの国に閉じ込められることになっていたでしょう。
この数日のコロナ騒動の影響の伝播の早さを考えれば悠長に構えている余裕なんてなかったはずです。その緊急性をいち早く察知し行動に移しアンテナを張っていたクリスはやはり相当に聡明な男です。
今回の件については私が愚鈍であったと言わざるを得ないでしょう。もしこのままアンゴラに閉じ込めらていたらそれは私個人だけでなく日本大使館職員を含め多方面に迷惑をかけていた可能性があります。それを考えると大いに反省しないとならないかもしれません。
さらにラッキーだったことはこの日に首都ルアンダに到着したということです。一日早くついていたらルアンダを離れてしまっていた可能性もあります。この日にいたおかげで明日の飛行機に乗ることができたのです。
いずれにせよ、この日、私の9か月に渡る旅の終焉を告げる鐘が鳴らされたのは確かなことでした…。